Aさんが、電話で Bさんに言った。
「南に行けば楽園があるそうだ。
Bさん、一緒に南をめざそう。」
それを聞いたBさん、
尊敬するAさんの真似をして、
そして最初に2人は、
おたがいの現在地点が「近所」だという事を電話で確認し合った。
そして、
お互い自分の現地点から
そのまま別々に南へ向かう事にした。方位磁石を握りしめ...。
磁石が示す方角を信じてまっすぐ南へ進めば、
同じ場所に着くだろう。
さらに念のため、10分ごとに、お互いに電話で確認し合おう。
電話での相互確認によれば、
Aさんが200M歩いたころ、
Bさんは190M歩いていた。
ペースがほぼ同じだ。悪くない。
でも..............残念な事が起きていた。
Aさんは、歩いているうちに
いつの間にか「南行きの列車」に乗ってしまい、
その車両の中を南へ向かって歩いていた。
Bさんは、知らないうちに
「北行きの列車」に乗ってしまい、
その車両の中を南へ向かって歩いていた。
共に、
磁石が南を指す方角へ、夢を描きながら黙々と歩いていた。
列車に乗ってしまった事など、気づく余地もなかった。
トンネルばかりが続き、窓の外の景色を見ることも無かった。
「なんだか暗くて怖いな、でも頑張ろう。」
「大丈夫だ、僕達は南へ向いて歩いている。」
そして 3日がすぎた。
「暗闇の中に明かりが見えてきたぞ、そっちはどうだい?」
「こっちも見えてきたよ、ゴールで会おう。」
「大きな虹が見えてきた!最高の気分だな!」
「こっちは....吹雪しか見えないぞ。虹はどっちだ?」
出発地点は ほぼ同じだった。
目指した場所も同じだった。
同じ方角へ歩いていた(はずだった)。
進むスピードも同じだった。
ところが到着したのは真南と真北である。
こういう事は現実世界でも良く起きる。
しかし、自分だけ北へ着いたからと言って悲観する必要は無いだろう。
北の果てから出発する列車は、それ以上どんなに乗り間違えても全てが南へ向かうからだ。
少しだけ紆余曲折するかも知れないが、
大なり小なり必ず南へ向かう。
終わりこそが新しい道の始まり。